PROJECT
CIEL*LINK

STORY

地鎮祭 jj Cras we Cab Seff

chef-i-tes-ny lin-ea;

EXEC_with.METHOD_CIEL.*.LINK/.

「プロジェクト・シエルリンク」とは

 滅びの危機に瀕したアルシエル。やがて赦しの詩が響き、惑星は再生を始めた。
 ほどなくして、「塔間ネットワーク」が敷設される。塔と塔とを繋ぎ、レーヴァテイルの行動範囲を広げるための衛星通信網。これによりβ純血種やオリジンの塔間移動、移動先での詩魔法行使が可能となった。
「プロジェクト・シエルリンク」は、この「塔間ネットワーク」敷設事業の一環として発足したものである。

 死の雲海が晴れ、わずかながら緑を取り戻し始めた大地。塔にしがみつくように生きてきた人々にとり、眼下に広がる大地への憧れは必然だった。塔間で人的・技術的交流を推し進め、地上への入植計画が現実味を帯びてきた頃、事件が起こる。
 3779年、ティリアの寿命が近づき、塔の消滅を予告。ソル・クラスタの住人はソル・シエール、メタ・ファルスへと避難した。避難の途上では空賊が跋扈し、給油のため地上へ降りる際にも危険が伴う。レーヴァテイルの戦力が頼みとなるが、同時に「塔間ネットワーク」の弱点が浮き彫りとなった。地形によるD波の干渉、ネットワーク対象外であるI.P.D.の活動限界……。惑星全体を緻密にカバーし、すべてのレーヴァテイルが自由に謳う、新たな通信網の整備が急務であった。
 誰もが安心して暮らせる世界のため、地上に根を張る未来のため。
 塔を越えて出会った少女達の願いに呼応し、「プロジェクト・シエルリンク」は官民共同事業としてスタートした。
 新ネットワークは一基の基幹衛星と、多数の小型中継衛星からなる。基幹衛星はインフェル・ピラとの互換性対応、アクセスポイントとしての機能を担い、中継衛星はアルシエル全土をくまなく網羅、夜空を新たな星のごとく彩るだろう。
 困難は多い。インフェル・ピラのネットワーク参加、衛星製造・打ち上げ拠点構築のための地上入植、民間へのヒュムネクリスタル作成技術の提供など、三塔が手を取り合い、想いを繋げていく。
 基幹衛星の名は「ネネシャ・ラーワ(Nenesya Frawr)」。此岸と彼岸に引き裂かれ、ついぞ叶わなかった二人の再会。取り残されたインフェル・ピラに、ネネシャの想いを届けたい。
 種は芽吹きを待っている。天高く、花咲く時を夢見ながら。

3776
惑星再生
3779 ソル・クラスタ住民避難(第一次)
「プロジェクト・シエルリンク」発足
打ち上げ拠点建造地にて地鎮祭挙行
Tr.1 地鎮祭 jj Cras we Cab Seff
3780基幹衛星打ち上げ
Tr.2 chef-i-tes-ny lin-ea;
衛星通信試験を実施
Tr.3 EXEC_with.METHOD_CIEL.*.LINK/.
中継衛星打ち上げ
3781 ソル・クラスタ住民避難(第二次)
第三塔消滅
  • ストーリーおよび年表は、公式設定に独自の解釈を加えたものです。

地鎮祭
jj Cras we Cab Seff

バックグラウンドストーリー 前編

 ベルジャは最初、その話を聞いた時、それが自分事と思えずに放心してしまった。
「此度、塔を繋ぐための衛星を発射する基地を地上に建てることになったらしい。その建設候補地で地鎮祭を執り行う。やるのはお前だ、ベルジャ」
 祖父に言われた言葉のほとんどを、ベルジャはすぐには理解できなかった。何故それを自分に言いつけてくるのかも。
 メタ・ファルスに存在したと言われる「十二賢人」の末裔、そのうちの一つがウィルドーレの一族であり、ベルジャの家族だった。一族は古来より脈々と受け継がれてきた「月奏」の血と文化を継承し、その高貴な血に恥じぬよう、皆一様に学者や政治家といった高位の職についていた。
 だが、ベルジャは違った。少なくとも「自分は違う」という自認があった。ベルジャは普段、実家から親類の店へ通って手伝いをして過ごしている。では月奏としての仕事が多いかと言われるとそれも稀。時折、お祭りや祝い事でそれらしいパフォーマンスをする程度で、そんな自分を一族の落ちこぼれとまで思っていた。
 そうやって卑屈にしている自分に白羽の矢が立ったことが、ベルジャにはことさら理解できなかった。
 聞けば、第一候補であった別の一族の男は急遽病欠、そして第二候補である実の姉も妊娠が判明し辞退、そうやってようやくお鉢が回ってきたのが自分だという。
 何も月奏として神事を執り行えるのは自分や姉だけではない。他にも候補はいただろうし、何より姉なら喜んで送り出すことができた。それなのに姉は「あなたなら大丈夫よ」と背中を押すのみ。
 結局、一族の重鎮である祖父からの言いつけを撥ねつけることなどできず、ベルジャはこの話を渋々でも受け入れるしかなかった。
 ベルジャは幼い頃から月奏の教育を受け、それなりの才覚も見せてきた。でもそれだけだ、と思っていた。派手な詩魔法を行使できるレーヴァテイルだったならまだしも、よく分からない不思議な現象を起こすことくらいがやっとの自分に、一体何ができるのかと。
 それでも――と、ベルジャは足元、このメタファリカの地を見て思った。ここは数多の想いが織り重なって完成した真の「理想郷」。この大地を踏みしめる者の一人として、連綿と理想を紡ぎ続けてきたメタファルスの民の一人として、自分に少しでも貢献できることがあるならしたい。それがベルジャの本心だった。
 そう、こんな自分にでもできること。それは人として、月奏として謳うことだけ。
「わかりました……私に、やらせてください」
 だから、自信がなくても、不安でも、ベルジャはそう言った。あるいは言ってなお後悔しながら、それでも辞退した二人の分も私がやらなきゃ、と自分を奮い立たせた。
 それからというもの、舞に言祝ぎにと日々真面目に稽古に励むベルジャを見て、周囲の人は思うのだった。ああ、ベルジャに任せたことに間違いはなかった、と。

地鎮祭
jj Cras we Cab Seff

バックグラウンドストーリー 後編

「あら、あなたたちは……」
 レーレは、自分と同じようにこの場所に引き寄せられてきた様子の、二柱の神に声をかけた。
「ええと、そちらは確か、サーシャのところの」
「はい、ファイと申します!」
 ファイと名乗るその少女の姿をした神は、この惑星アルシエルに息づく実際の物理的・化学的法則と、人の編み出した「波動力学」の整合性の管理——つまり、人の発見した法則に寄り添った"つじつま合わせ"をすることで人の世の文明を推し進めてきた、「智徳の意志」に属する一柱である。
 神と人との諍いにも人の側に立ち人を愛してきた知識の神サーシャの、その直属の子にあたる彼女は、幼い表情の中に親譲りの落ち着いた眼差しをして、興味深そうにレーレのことを窺い見た。
「そちらはもしやレーレ様? もしかして、あなたもこのウタに呼ばれた感じですか?」
「ええ。どこか懐かしい、温かい歌声に引き寄せられてしまったようです」
「ファイもです! 人がイチから頑張ろうとしてた頃の、あの懐かしい感じを思い出します!」
 ファイはそう言ってしゃがみ込み、光の渦を興味津々と言った素振りで見下ろした。
 その横には、静かに口を引き結び佇む、筋骨隆々な青年の姿をした一柱もおり。
「あなたはディジアの。シャラノワールがたびたびお世話になっていますね」
「……ああ、あのやかましいのの親か。テルグラントだ。あるいはお久しぶりにございます、かな」
 そう低く静かな声色で語ったのは、「力の意志」の一柱であるテルグラント。大喰らいで知られ、腹がすけば麓の町をたびたび溶岩で押し流して来た逸話のある山の神ディジアの子。動物や植物の住み良い土壌の管理を使命とした一柱であることから、植物を司る意志シャラノワールとは何かと縁のある一柱だ。
 そのディジアは、シャラノワールの「ムーシェリエルの球根」を口にして以降、食欲が落ち着いて静かになったと聞く。ディジアとシャラノワールはよくケンカする間柄として有名で、当時はレーレも仲裁に手を焼いていたものだった。
「その様子ですと、あなたも最近目を覚ましたひとりでしたか?」
「然様。星の総意に叩き起こされて来てみれば、地上はひどい有様だ。まったく、また一から土を練らねばならぬとは……気が遠くなるな」
 そう静かに息を漏らしたテルグラントの表情には、薄くとも確かな微笑が浮かんでいた。それを見たレーレは、二柱の意志にそれぞれ目配せをして。
「なるほど、私たちがここに引き寄せられた理由が分かりました。この詩から強く感じられる、人の子の願いによるものですね」

chef-i-tes-ny lin-ea;

バックグラウンドストーリー 前編

 完成した衛星がクレーンに吊られ、マスドライバーのカタパルトにゆっくりと載せられていくその様子を、コルノーガは管制室の窓からひとり眺めていた。
 詩を繋ぐ衛星、「ネネシャ・ラーワ」。既存の塔間ネットワークではサポートが十分にされていない第二塔由来のレーヴァテイル「I.P.D.」を含むすべてのレーヴァテイルが、この衛星を通して全世界で謳えるように——という思想のもとに造られた、新たな塔間ネットワークの構築を目的とした衛星だ。
 プロジェクトも大詰めを迎え、コルノーガは思う。自分がしたことは多くはない。ただプロジェクトを回すための資金と、塔間を行き来するための足、いくらかの知恵を出して、あとは若い連中の熱意がプロジェクトを走らせた。この「プロジェクト・シエルリンク」に息を吹き込み、衛星打ち上げなどという途方もない計画を現実のものにしてみせたのは、他でもない、今を生きる若者たちだった。
 今日まで百年と少しの時間を生きてきたコルノーガに対し、プロジェクト推進者たる少女たちは、この星に生を受けてまだ十五年やそこらだ。だというのに、少女たちはこうして世界を巻き込み、衛星一つを打ち上げるところまで漕ぎつけてみせた。
 その「想いの力」の大きさに、コルノーガは羨望にも似た感情を覚えながら、我が身を振り返った。自分には果たして、何かを一つ貫きたいとするほどの大きな「想いの力」があっただろうか。これまでの半生の中で、何か一つでも「世界を良くしたい」と思って事を成し遂げたことがあっただろうか。
 見やる窓の外、射出用カタパルトの周辺では、この物語の主人公たちが忙しなく駆けずりまわっている。衛星打ち上げにはまだ時間がかかるらしい。
 コルノーガは眩しい景色を見つめながら、壁に背をもたれ、自分の遠い過去に思いを馳せた。

 流通会社「コルノーガロジスティクス」は、自分が二十歳になってすぐの頃に設立した会社だ。
 最初はほぼ身一つの荷物運びから始まった、吹けば飛ぶような小さな会社だった。それが転がるように仕事にのめり込み、寝る間も惜しんで東奔西走し、そうして気づいたころには第三塔の流通をほぼほぼ掌握するまでの大会社になっていた。
 その一見して長大そうな道すがらのどこに、果たしてどれだけの「想いの力」があっただろうか。そもそも「想いの力」などという大層なモノが自分にはあっただろうか。
 そんなものはない。自分をここまで歩かせてきたのは、もっと単純で、粗野で、馬鹿馬鹿しいもの。そういうつまらないモノに違いなかった。
 ——妖家。自分の生まれた一族のことを、ソル・クラスタではそう呼ぶ。
 一族のことは嫌いだった。堅苦しい掟も、”斯くあるべし”と刷り込まれる教育も、その身のうちに流れる特異な血も含めて全て。
 その妖家が牛耳るクラスタニアは無菌で、無害で、ゆえになんの刺激もなかった。若き日の自分は、このまま妖家として生きることに絶望しか感じなかった。

chef-i-tes-ny lin-ea;

バックグラウンドストーリー 後編

 幾月か前のこと。
「じゃ、後のことはよろしくな、レン。時間になったら戻ってくる」
「えっ、ノーさんは? まさかここに来てサボり!? どこ行くかくらいは言っといて……ってお~い? 行っちゃった、なんだよもう~」
 第三塔崩落の発表に伴う、ソル・クラスタ住民の第一次計画避難が実行に移されるその日。惑星再生前から世界が外向きになっていくことを予見して投資していた大型旅客船をソル・クラスタの空港に着港させたコルノーガは、港に集められた多数の住民を横目に、外套の襟を立て、ひとり人気のない道をどこかへと歩いていく。
 そうして辿り着いたのは、コルノーガが生まれ、十代半ばで飛び出してきた生家――その跡地だった。
 戦争によって影も形もなくなったその場所に、何をしに来たわけでもない。それでも何故かこの場所へと足を延ばしてしまったその矛盾に頭を掻きながら、コルノーガはその場を立ち去ろうとした。
「あなたは、もしかして妖家の者か?」
 その言葉に、コルノーガは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「……あんたは?」
 そこに立っていたのは、見た目の若さにそぐわない、落ち着き払った表情と声色をした女性だった。その見目と雰囲気とのギャップから、コルノーガはすぐに”特有の気配”を察して、それを言葉にする。
「あんた、レーヴァテイルだな? 俺に何の用だ」
「ついてきてください」
 その無機質な、ともすれば人間らしさの欠けた物言いに、コルノーガはやはり立ち去ろうとするも、どうしてかその背を追ってしまう。
 そうして幾らかほど歩いた先に目にしたのは、一つの小さな石碑だった。
「これは、妖家の墓です。骨は埋まってはいませんが」
「何……?」
 レーヴァテイルは石碑に視線を落とすと、膝を合わせて静かにしゃがみこみ、両手を合わせて目を閉じた。
 そうしてしばらくの沈黙が流れた後。
「私はツギキ。かつて、妖家の方にお世話になった者です」
 自らをツギキと名乗ったそのレーヴァテイルは、静かに立ち上がると、コルノーガに体を向けて言葉を続ける。

EXEC_with.METHOD_CIEL.*.LINK/.

バックグラウンドストーリー 序章

「ついに咲くんだ、私たちの”花”……」
 ここは地上、世界に三本ある塔のちょうど中央に位置する小島。
 まだ世界のどこにも属さないその場所で、黄昏の空に遠く光る銀の星を見上げ、レンはぽつりとそう言った。
「そうですね。今日まで長かったようにも、短かったようにも思います」
 レンの言葉に導かれるように、キラも続いて空を見上げる。そんな二人を見て、プリナも同じように空を見上げた。
「嵐みたいな日々だったわ。今でも自分がこうしてここに立っているのが信じられないくらい」
 それぞれの想いを胸に、熱を瞳に。三人の少女は、夜の黒が混じり始める朱色の空を――その茫洋たる天の海に浮かぶ、「花」の名を冠した衛星を見つめていた。
「え~、信じられない? 私は信じられるけど? プリナがここにいること」
「信じられないわよ。何度アンタの無茶ぶりに痺れを切らしてソル・シエールに戻ろうと思ったか」
 やれやれ、とプリナは苦笑交じりにそう言った。そのプリナに「まさか」とキラが口を挟む。
「プリナが第一塔に帰る? 面白い冗談です。プリナは誰よりもレンの家での生活を楽しんでいたはずです」
「おっ、それほんと!? ねぇキラ、それどこソース!?」
「一昨日聞いた寝言がソースです。曰く、アンタら揃って私がいなきゃダメなんだから、と」
「なっ……はぁ!? 言うわけないでしょ、私がそんなこと! どうして私が問題児二人のお世話なんか自ら望んでっ、」
 いつものようにいきり立って反論しようとしたところで、そのプリナの口から、はぁ、と言葉の代わりにため息がこぼれる。
「…………というか、レンもキラも。それぞれメタ・ファルスとソル・クラスタの代表だっていうのに、どうしてそんなリラックスしてられるの?」
「私はソル・クラスタの代表ではありますが、今はプリナと声を重ねて謳うことを楽しみにしている一人の友人としての属性がメインですから」
 すんなりとそう言いきったキラに、プリナは少し面食らった後、もじもじとしながらバツが悪そうに口をとがらせる。
「そっ…………そう? まあ、そうね、今は手を取り合う同志? 友達? としての立場の方が、確かに強いわね。うん、そう」
「出た、キラのプリナ落とし! ソル・クラスタのレーヴァテイルは火力が違うねぇ!」
「メタ・ファルスのレーヴァテイルは軽口叩きすぎ」
「なっ、失礼しちゃう! 口がよく回る、って言ってくれない? ていうかプリナぁ、私にもデレってしてよぉ~」
「あ~ッ絡まないでったら、ほんと緊張感のない!」

EXEC_with.METHOD_CIEL.*.LINK/.

バックグラウンドストーリー プリナ編

 私はソル・シエールで生まれた。
 名前はプリナ。ちょっとかわいすぎる名前なのがコンプレックスだけど、「草木みたいにのびのび育ちますように」って思いをこめてつけられた名前、だったように思う。
 思うっていうのは、そこに込められた意味を確かめられる人はもういないから。
 私の両親は、エル・エレミア教会の神官騎士と、そのパートナーであるレーヴァテイルだった。どちらも正義漢を顔に貼ったような人たちで、困った人がいたら放っておけないタイプだった。たとえ家族での外出中でも、私を放り出して目の前の困っている人を助けにいく、ってことも珍しくなかった。
 そんな性格が祟ってか、両親は揃って死んだ。まさに家族でお出かけ中の非番の日に、モンスターの群れに囲まれた子供を助けるために、ほぼ丸腰みたいな状態で飛び込んでいって。子供は助かったけど、両親はそのまま。
 当時八歳だった私は、急に両親を二人とも失い、何が起こったかも整理がつかないまま、幼馴染の男の子――トォルクの家に引き取られた。
 今思えば、息子の幼馴染とはいえ、まだお金も稼げない他人をひとり、急に家庭に迎え入れるなんて簡単に決められることじゃない。実際、トォルクの両親はいい顔をしていなかった。当たり前だと思う。それでもトォルクの熱心な説得により、私は幸いにも住む場所だけは困らないでいられた。それだけで、私はきっとすごく運がよかったんだと思う。
 九歳になってすぐ、レーヴァテイル質の発現――昔で言うところのタトゥリスタ病を発症した。生きるためにダイキリティが必要になって、安定した投与を受けるには、天覇に入るか、出家してエル・エレミア教会に入信するか、そのどちらかを選ぶ必要があった。
 私は迷いなく後者を選んだ。レーヴァテイルへの扱いの悪い天覇に行くのは嫌だったし、それにトォルクの家でいつまでも居心地悪く過ごすよりかは、質素でも、住む場所のある教会に行く方がずっと心が軽かったから。
 少ない荷物をまとめて去っていく私を、トォルクの両親はぎこちない笑顔で見送った。それでよかった。トォルクだけが苦い顔をして私を引き止めたけど、だからって子どもに何ができるわけもなく、最終的には彼の両親と一緒に私を教会に送り出した。
 教会に入ってすぐ、私は六角板試験を受けた。結果はAクラス相当だった。教会の人は目の色を変えて「君は優秀だ」「修練を積んで早く人の役に立ちなさい」と私の肩を叩いたけれど、レーヴァテイルとして「魔法」を紡ぐ興味も、人のために生きていく覚悟も、そのどちらも私にはなかった。ただ住む場所さえあればよくって、私は周囲の期待の目もよそに、狭い部屋でひとり膝を抱えて過ごした。
 幸いにして、私は教会の偉い人――ファルスって名前だったっけ――が言うところの「聖女」候補の一人だったから、ろくに戦闘の訓練もせず、騎士のパートナーをつけることも頑なに拒否して、ずっと部屋に閉じこもっていても何も言われなかった。自分の両親のように、誰かのためにと言って自分の命を投げ捨てることなんてしたくなかった。死ぬのも死なれるのも嫌、そうなるくらいなら誰ともつながりを持てなくていい——そうやって、やるべきことから逃げ続けながら、ただ自分以外の何かが変わってくれることだけを祈って、息をしていた。

* * *

EXEC_with.METHOD_CIEL.*.LINK/.

バックグラウンドストーリー 綺羅編

 綺羅_cx.響種匂羽衣。それが私の名前。
 第三塔依存のレーヴァテイルとして、クラスタニアの培養槽から生まれたβ純血種。プリナともレンとも違い、人間質を持たない純粋な人工物。
 生まれた瞬間から私はひとりだった。抗体によるβ生産工場襲撃事件、それが起こった年の出生ロット「3762-4」――3762年の第4四半期に出生を予定していたロット、なお第1四半期のロットにはアカネ将軍も含まれていたらしい――の末端に名を連ねていた私は、その3762-4ロットにおける唯一の生存者として、クラスタニアに生を受けた。
 抗体接触を受けた存在は例外なく死滅する。それが示すところはつまり、私はそのとき抗体の接触を免れた、ということだ。
 理由は今でも分からない。ただ、周囲は私のことを陰で盛んにこう言った。「抗体も寄りつく価値のない、失敗作のレーヴァテイルだ」と。
 失敗作かはさておいて、私は確かに、周囲とは違う存在だった。それもきっと良くない意味で。それは私というレーヴァテイルの基礎となっているコンフィグファイル、あるいは「ブランド」や「血統」とも呼ばれる基本設定――「匂羽衣」と名前のついた、その人格プリセットに由来する。
 通称、美星プリセット。過去に存在した「美星」というレーヴァテイルの設定ファイルを元にテンプレート化されたコンフィグファイル。かつて惑星崩壊の引き金のひとつを引いたとするそのレーヴァテイルは、一方で「惑星再生を切に願ったレーヴァテイル」とも言われていた。遠い過去、そういった美星を礼賛する派閥の研究員によって作成されたプリセットのひとつが、この美星プリセット、ということらしい。
 らしいというのは、そのプリセットを私に設定した研究員も抗体接触によって死んでしまい、経緯を知るものがいなくなってしまったからだ。後に参照したクラスタニアのデータベースにはこう書かれていた。「このプリセットは現在では誰一人として使うことのない、いわば旧式のプリセットだ。素直すぎて扱いづらいし、指示は鵜呑みにする。美星というレーヴァテイルの曰くも相まって、公開後すぐに不人気プリセットに格下げされ、以後ほとんど採用されることなくゴミ箱に放り込まれた失敗ファイルだ」――と。アカネ将軍のプリセット「楼翔花」が「御種」用のハイブランドなら、私の「匂羽衣」は「響種」用、それもほかの汎用ブランドにあるような有用性も持たない使えないブランド、といったところか。
 そんな私だから、クラスタニアにおいても鼻つまみ者だった。いや、血統によるものだと断ずるのは甘えだろうが、しかし私はとにかく他人に興味がなかった。ともすれば自分からコミュニケーションを取ることもせず、ただ疎遠にされるままにいた。一部のレーヴァテイルは、ぼーっとする私に石を投げたり、とやかく難癖をつけたりもした。それらに対し、私はどんな有効な反応も示さなかった。柳に風、暖簾に腕押しの私に関与しようと思う者は、ついにただの一人もいなくなってしまった。
 そんな私だから、使い捨ての駒として扱うには都合がよかったのだろう。私が六歳――つまり外見年齢にして十二歳相当か――のとき、アルキアの保持する原初の塔のSHサーバーを奪取するための侵攻作戦に投入された私は、その最前線部隊に配属された一兵卒として、熾烈極まる戦場に身を投じた。このとき、自分でも驚くほどの冷静さで作戦を遂行していった私は、当初期待されていたような「鉄砲玉」のような散り方はせず、むしろ一人、大した傷も負わず着実に戦功を立てていき、戦に傷つく周囲の兵に白い眼を向けられたのを覚えている。

* * *

EXEC_with.METHOD_CIEL.*.LINK/.

バックグラウンドストーリー レン編

 私の名前はレン。
 今はメタファリカの都市、インフェリアーレに住んでるけど、昔はスラムに住んでいた。九歳のころだから、今から七年前くらいかな。
 読んで字のごとく、スラムはスラム。塔に元々あったパスタリエって都市の、その下層に存在していた、本当なら人が住んじゃいけない場所。家族がいなかったり、どこにも行く当てがなかったり、人に言えない後ろめたい理由があったり――そういう人たちが最終的に行き着く場所。スラムはそういうところだった。
 それでも私には故郷だった。正式な都市として認められていなかったスラムでの生活は、それはそれは大変だったけど、それでも私は不幸だなんて思わなかった。大切な家族が、大事な大事なおねえちゃんたちが、私にはたくさんいたから。
 イオンおねえちゃん。こういう言い方は好きじゃないけど、私と血のつながった、実のお姉ちゃん。
 いつも元気で、大変なときでも大変って言わないで、塞ぎ込みがちなスラムの子たちを誰より励まして助けてた、自慢のおねえちゃん。こっそり悪いことをしてお金を稼いでいた時期もあったけど、それを幼い私とサニーには言わず、リリおねえちゃんと一緒に家を切り盛りしてくれていた。強くて、優しくて、私と同じI.P.D.で、だけどI.P.D.であることを恐れてなくて。私たちの真ん中にはいつも、太陽みたいなイオンおねえちゃんの存在があって、だからみんな前を向いて暮らせていたんだと思う。
 インフェリアーレに移り住んだ後は、イオンおねえちゃんとリリおねえちゃん、私とサニーの四人で、なんでも屋「四つ葉堂」を開いた。イオンおねえちゃんはそこの店長さん、だけど今は実質リリおねえちゃんが店長さんみたいなものかな。
 イオンおねえちゃんは、メタファリカができた後も行くあてのなかったスラムの子たちが集まって生活するための施設「しっぽの灯」をネルおねえちゃんと一緒に立ち上げて、そこでネルおねえちゃんと一緒に幼い子たちの面倒を見てくれている。その活動はメタ・ファルスの政府機関、大鐘堂にも認められていて、最近ではミッコちゃん――もとい、御子様との会議が増えて大変だって言ってたっけ。
 次に、リリおねえちゃん。イオンおねえちゃんとも私とも、そしてサニーとも血のつながらないお姉ちゃんで、普段は冷静でツンとしてるように見えるけど、実は誰よりも家族思いで心の熱いおねえちゃん。
 ダイバーズセラピっていう、I.P.D.を発症した子を唯一治療することのできる、ダイブを使ったカウンセリングのようなことができるすごい人。ダイバーズセラピはお給金が高い分、技術をモノにするための修業が信じられないくらい大変で、やろうと思っても簡単にできることじゃないらしい。それでも私たちの生活のために死ぬ気で頑張って、イオンおねえちゃんと一緒に私たちを食べさせてくれた。I.P.D.を発症した子が多く住まうスラムにとって、リリおねえちゃんの存在はまさに生命線そのものだった。
 リリおねえちゃんは四つ葉堂の経理担当で、今はお店のほとんどをリリおねえちゃんが管理してくれている。リリおねえちゃん曰く「目つきが悪い自分は店番に向いてない」とのことだけど、よく外での仕事をしている私と、作業場に閉じこもって調合に明け暮れているサニーを引くと、残りはリリおねえちゃんしかお店にはいなくて、苦手な店番も何とか頑張ってくれている。でもダイバーズセラピは元々お客さん相手にする仕事なのもあって、おねえちゃんの営業スマイル見たさに来るお客さんも多かったりする。リリおねえちゃんはそういう人相手に、サニーの作った調合アイテムを売り捌いてお金にしてくれているんだ。

* * *

SPECIAL

購入者特典ページへのログイン

[ LOG IN ]

  • ユーザ名&パスワードの入力が必要です。
    ユーザー名: YEqejyu
    パスワード: カード台紙 / CDオビ裏 / DL版同梱のPDFに記載
  • Username and password are required.
    Username: YEqejyu
    Password: Found on the card backing, the back of the CD's obi strip, or in the PDF included with the digital version

CHARACTER

ベルジャ・カルメナ・ウィルドーレ

Bellja-Carmena-Willdorre

「どうして私なんかが選ばれたんだろう…」
「月奏の詩魔法は、レーヴァテイルには敵わない。でも、少しでも力になれるなら、ここで生きていきたいんです」

メタ・ファルスの古い一族「十二賢人」の末裔。月奏としての実力は確かだが、現代では活躍の場はほぼない。
他に取り柄のない自分を周りと比較し、卑屈になりがち。
紆余曲折の末、「プロジェクト・シエルリンク」の第一歩、地鎮祭の担当に選ばれ地上に派遣される。

年齢18歳
種族人間
出身メタ・ファルス
好きなもの歌、くるるくだんご
嫌いなもの遅刻する人、虫刺され
  • 原作には登場しない創作キャラクターです。

プリナ・ヘイヴリーン

Plina-Havelyne

「私ひとりがしたことで世界が変わるとは思わない、でも…」
「神様に祈ってるだけじゃダメだと思う。私が、私たちがしたことが、少しでもこの世界を良くすることに繋がったら…」

ソル・シエール出身。教会で「聖女」候補となるが、両親の死がトラウマとなり戦闘参加を拒否。見かねた幼馴染みに強引に誘われ、何とか実戦をこなすようになる。
なかなか前向きになれずにいる中、レン達に出会い、運命が動き出す。

ヒュムネコードLYUNE_FEHU_EOLIA_ARTONELICO
年齢18歳
RT分類A.T.D.(第三世代)
所属エル・エレミア教会
好きなもの小さい動物、雲海観察
嫌いなものポム、水風呂
  • 原作には登場しない創作キャラクターです。

レン

Ren

「自分たちだけが幸せな世界は少し寂しい」
「メタファリカを世界に、理想を紡ぐ詩は終わらない!」

メタ・ファルスのスラム出身。メタファリカへ移住後、妹のサニーや「おねえちゃん」達と共になんでも屋を営む。
詩魔法だけでなく格闘術にも優れ、とある輸送船を空賊から助けた縁で世界を飛び回ることに。プリナや綺羅との出会いを経て、「プロジェクト・シエルリンク」の発起人兼リーダーとなる。

ヒュムネコードなし
年齢16歳
RT分類I.P.D.
所属なんでも屋「四つ葉堂」
好きなものねろねろソーダ、たくさんのおねえちゃん
嫌いなもの逃げること、我慢
  • 原作ドラマCDの設定を元に独自のアレンジを加えています。

綺羅_cx.響種匂羽衣

Kira_cx.LOUDNESS_CATEGORY.Nioui

「世界は私の知らない輝きで溢れている」
「私は私の意思でこの詩を謳う」

ソル・クラスタ出身。培養槽が抗体の襲撃を受け、同ロットの同期は全滅、唯一生き残る。そのため不気味がられ、周囲から浮いた存在に。
時折見る「変な夢」の指示に従い、戦乱の中を生き延びた。
自分にも他人にも無関心だったが、レン達に影響され変わり始める。

ヒュムネコードKIRA_FEHU_TILIA_HARVESTASYA
年齢17歳
RT分類H.D.(β純血種)
所属クラスタニア
好きなもの寝ること、アイロンかけ
嫌いなもの世間話、うるさい人
  • 原作には登場しない創作キャラクターです。

コルノーガ・ネネ・ブリエ

Cornorga-Nene-Briee

「テルの血なんてクソ喰らえだ、それは今でも変わらない」
「だけどよ、ここでこの力を使わなかったら、俺は一生後悔するに違いねぇ」

ソル・クラスタ出身のテル族。実家を飛び出し、自ら興した運送業で成功を収める。
業務中にレン、サニーと出会い雇用関係に。「プロジェクト・シエルリンク」の立ち上げにも携わり、資金や物流を支援する立場となる。
自身の護「タンブロ」と共に行動。

年齢110歳(外見は35~40歳)
種族テル族
所属運送会社「コルノーガロジスティクス」
好きなもの契約書、仕事後の一杯
嫌いなもの伝統、テル族
  • 原作には登場しない創作キャラクターです。

サニー

Sunny

レンの妹。「四つ葉堂」で取り扱うトンデモアイテムは彼女の作。
首都インフェリアーレでさーしゃの留守を預かる傍ら、「フィラ理論」などの蔵書を読み漁り才能を開花させた。
プロジェクトでは衛星開発の技術主任を務める。

年齢15歳
種族人間
出身メタ・ファルス(スラム)
所属なんでも屋「四つ葉堂」
好きなもの工具、素材採取
嫌いなもの早寝、マニュアル作成
  • 原作ドラマCDの設定を元に独自のアレンジを加えています。